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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)3802号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人佐々木禄郎の上告趣意第一点は、判例違反に言及するが、引用判例(大正二年(れ)第二二九五号同三年一月一九日大判、刑録二〇輯一七頁)のいかなる判断に反するかを明らかにしていないから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。のみならず、原審の維持した第一審判決によると、被告人らは国民健康保険事業を実施する大井村の運営資金として岡山県国民健康保険団体連合会から融資を受けるに当り、同県国民健康保険融資基金規程に基づき同村村長社寅男名義の借入金申込書に添附すべき必要書類として右連合会に提出するため、右借入金に関する村議会の議決もなく、従って、これが議決書も存在しないに拘らず、ほしいままに、右社村長から借入金に関する議案を議案第九号として村議会に提出し村議会においてこれを議決した旨を記載して本件村議会議決(写)なる文書一通を作成した上、これを右連合会に提出行使したものであって、右写は、その記載の如き議決書の写なる旨を表示した趣旨の公文書と認めるに十分であり、被告人らの右所為は、刑法一五五条三項の文書偽造罪に該当するものといわなければならない。それ故、原審の判断は、結局正当であって所論は採るを得ない。

上告趣意第二点もまた、判例違反に言及するが、引用判例(昭和二五年(れ)第四三〇号同年六月一日第一小法廷判決、集四巻六号九〇九頁)は、詐欺罪の目的物たる財物の意義を判示したものであって、本件に適切でなく、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

なお、本件は、記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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